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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)15号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 いずれも成立に争いのない甲第二号証の一(本件願書)、同号証の二(本件出願の昭和五八年一月七日付け手続補正書)及び同号証の三(同じく同年六月二一日付け手続補正書)によると、

<1> 本願発明は、バルブ、特にバルブの入口によく付着する異物を破砕し又は除去するような働きをする自己浄化バルブに関するものであること(本件願書添付の明細書(以下「本願当初明細書」という。)第五頁第三行ないし第五行)、

<2> 本願発明は、可動のバルブ部材の入口に付着した異物によつて、バルブのバルブシートが損傷を受け、バルブに漏れを生じるといつた問題点を改良した、自己浄化機能を有するバルブを提供することを目的とすること(昭和五八年一月七日付け手続補正書第二頁第三行ないし第八行)、

すなわち、その目的は、可動のバルブ部材入口が剪断部材の固定バルブ部材との間で働き、それによつて可動のバルブ部材に付着した異物を削除又は除去する形式のバルブを提供することにあること(本願当初明細書第五頁第一四行ないし第一七行、昭和五八年一月七日付け手続補正書第三頁第一二行ないし第一三行)、

<3> 本願第一発明は前記本願発明の要旨の1のとおりの構成を有しているところ、この構成により、自己浄化の機能を達成することができるという作用効果を奏すること(昭和五八年一月七日付け手続補正書第三頁第九行ないし第一一行)、

<4> この構成における「入口手段から該入口へ流れる流体の流れを制御するための該可動のバルブ部材の動き」とは、

ア バルブを通つて流れる流体の流量と温度を制御するための可動のバルブ部材の動き(回転及び往復動)を示す場合(本件出願図面(本判決別紙図面(1))Fig. 1、Fig. 8、及びFig. 9に示される実施例の場合)と、

イ 流体の流量のみを制御するための可動のバルブ部材の動きを示す場合(同図面Fig. 7、Fig. 10及びFig. 11に示される実施例の場合)との二つの作動があることが認められる。

2 原本の存在とその成立に争いのない甲第三号証(第一引用例写)によると第一引用例に記載の混合栓の構成は、「内部に冷水導孔19と熱水導孔20を有する弁本体14と、弁本体14に隣接し、冷水導孔19及び熱水導孔20と整合するように可動の入口を有する可動の弁子5と、弁本体14によつて保持され、可動の弁子5と密封係合をするシール部材と、該シール部材から可動の弁子5の外側に位置し、可動の弁子5と密接な接触をする弁箱1の内側に形成された内壁面と、該内壁面に設けられ、可動の弁子5の動きによつて該可動の入口を介して冷水導孔19及び熱水導孔20と連通する環状通路2とを含む混合栓であつて、冷水導孔19及び熱水導孔20から弁子5の入口へ流れる流体の流量を制御するための可動の弁子5の動きは、可動の弁子5を該内壁面に接触しながら(弁子5の往復運動方向に)摺動させて、可動の弁子5の入口を環状通路2(の下縁)と摺擦させるようにした混合栓」(別紙図面(2)参照)であることが認められる。

3(1) 原告は、第一引用例に記載の混合栓では弁箱1の内側に形成された環状通路2の存在が必須であるのにもかかわらず、審決が環状通路2の存在を無視し、第一引用例に記載の混合栓について「該シール部材から該可動の弁子5の外側に位置し、該可動の弁子5と密接な接触をする弁箱1の内側に形成された壁面とを含む混合栓」と認定しているのは誤りである旨主張する。

なるほど前掲甲第三号証によると、第一引用例の図面の第1図、第5ないし第9図(別紙図面(2)参照)に、弁箱1の内壁面に環状通路2が形成された構造が示され、その実用新案登録請求の範囲の項第一頁第五行ないし第七行及び考案の詳細な説明の項第三頁第四行ないし第五行に右環状通路2についての説明が記載されていることが認められる。

しかしながら、相違点を認定する箇所で審決が「該可動のバルブ部材と密接な接触をする第一引用例に記載の部材、すなわち、「弁箱1の内側に形成された壁面」特に「通路2付近の壁面」」としたところも合わせてみると、原告主張の右の箇所において審決が「弁箱1の内側に形成された壁面」としたその「壁面」には、環状通路2が設けられていることをも当然の前提としているのであつて、審決が「可動の弁子5と密接な接触をする弁箱1の内側に形成された壁面」としているのは、「通路2付近の壁面」すなわち弁箱1の内側に形成された環状通路2の周囲の壁面のうち弁子5と密接な接触をしている部分を指しているものと解されるところである。

したがつて、審決が第一引用例の記載事項を認定するに当つて、環状通路2の存在を無視したものということはできず、審決は、その存在を前提として、本願第一発明と第一引用例記載のものとの間の一致点、相違点を認定したものというべきである。原告の前記主張は理由がない。

(2) 原告は、「弁箱1の内側に形成された壁面」を本願第一発明における「該可動のバルブ部材と密接な接触をする剪断部材」と対比することは誤りであり、審決は、本願第一発明と第一引用例記載のものとが「該密封手段から該可動のバルブ部材の反対側に位置し、該可動のバルブ部材と密接な接触をする部材」とを含むバルブである点で一致すると誤つて認定したと主張する。

しかし、前記本願発明の要旨によると、本願第一発明においては可動のバルブ部材が剪断部材と接触するのであり、また、前記2で認定したところによると、第一引用例記載のものにおいては、可動の弁子5が、弁箱1の内側に形成された環状通路2付近の内壁面と接触するものであることが明らかである。そうすると、可動のバルブ部材(第一引用例記載のものの弁子5)と密接な接触をする部材(本願第一発明の剪断部材、第一引用例記載のものの内壁面)を含む点で本願第一発明と第一引用例記載のものとは一致するのであるから、審決がした右の一致点の認定に誤りはないというべきである。原告の右主張も理由がない。

(3) 原告は、環状通路2の存在する第一引用例記載のものにおいて、冷水導孔19及び熱水導孔20から弁子5の入口へ流れる流体の流れを制御するとき、弁子5の「入口」は環状通路2に対面して移動するのであるから、「該導孔19、20から弁子5の入口へ流れる流体の流れを制御するため弁子5は弁箱の内側に形成された壁面と接触して該入口を摺動させた」点が第一引用例に記載されているものとした審決の認定は誤りであると主張する。

前記2で判示したところによると、第一引用例記載のものにおいては、冷水導孔19及び熱水導孔20から弁子5の入口へ流れる流体の流量を制御するために、可動の弁子5が弁箱1の内側に形成され、かつ環状通路2が設けられた弁箱1の内壁面と接触して、弁子5の入口を往復方向(ノブ12により弁子5を押引する方向)に摺動させるものである。そうすると、第一引用例記載のものでは、弁子5の右往復運動が冷水導孔19及び熱水導孔20から弁子5へ流れる流体の流量を制御するための操作のことであるということができる。

したがつて、審決の右認定には何ら誤りは存しないというべきである。

(4) 原告は、第一引用例記載のものについての右認定が誤つていることを前提として、本願第一発明と第一引用例記載のものが、「該入口手段から該入口へ流れる流体の流れを制御するための該可動のバルブ部材の動きは、このバルブ部材と接触して可動の入口を摺動させる」点で一致するとしているのも誤りであると主張するが、右前提の認定において誤りがない以上、右一致点の認定に誤りがあるとすることはできない。

すなわち、本願第一発明における「(固定バルブ部材の)入口手段から(可動のバルブ部材の)入口へ流れる流体の流れを制御するための可動のバルブ部材の動き(摺動)」とは、バルブを通つて流れる流体の流量と温度を制御するための可動のバルブ部材の動きだけでなく、流体の流量のみを制御するための可動のバルブ部材の動きをも意味するものであることは、前記1の<4>で判示したとおりであり、第一引用例記載のものにおける弁子5を往復運動させる動きは、本願第一発明における流体の流れを制御するための可動のバルブ部材の動きに相当するものであり、両者はこの点において一致するものであつて、審決の右一致点の認定はこの点について述べているものでそこに誤りはない。(なお原告は、右の一致点の認定中において審決が表現した「このバルブ部材」とは可動のバルブ部材のことと思われるが、そうすると、「該可動のバルブ部材の動きは、バルブ部材と接触して可動の入口を摺動させる」となつて理解できないと主張する。なるほど審決の右説示部分には表現において適切でないところがあるというべきであるが、被告主張の2(3)のように審決の記載を理解することができるから、この点をもつて審決に認定、判断の誤りがあるとすることはできない。)

4 原告は、本願第一発明と第一引用例記載のものとの間の相違点についてした審決の判断が誤りであると主張するので、この点について検討する。

成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によると、第二引用例には流体用の弁(バルブ)について記載され、その考案の目的は、粗大な粒体をかみ込んだときに、該粒体を弁の閉鎖力によつて強制的に切断排除することにより流体の完全な締切を行うことにあること、その弁は、弁体4の下端周面に上刃5を設け、弁座2の上部に下刃3を設けて剪断部材を形成したものであり、その作用は、弁の閉鎖時に粗大な粒体がかみ込まれた場合、上刃5と下刃3とによつて粒体が切断され、あるいは除去されて弁の閉鎖が異常なく行われるもの(別紙図面(3)参照)について記載されていることが認められる。

第二引用例におけるこのような記載によると、本願第一発明の優先権主張日当時、バルブについて、弁の閉鎖時すなわち流体の流量制御時に、バルブ入口に付着する異物を破壊し取り除くという技術的課題が公知であつたこと、及び右課題を解決する手段として、可動のバルブ部材の流量制御作動時に、バルブ入口に付着した異物を、(可動のバルブ部材の作動力によつて)、強制的に切断排除する剪断部材を形成することが公知の事項であつたことを認めることができる。

ところで、第一引用例に記載の混合栓について剪断部材を形成する場合のことを考えると、第二引用例に記載の剪断手段を第一引用例に記載の混合栓に適用できるとすれば、弁本体14(固定バルブ部材)の内側に設けられた冷水導孔19及び熱水導孔20の出口部分と可動の弁子5(可動のバルブ部材)の入口部分とにそれぞれ刃体を構成することとなる。この構成においては、可動の弁子5の刃体によつて、流量制御時に密封手段が損傷するおそれがあることが明らかであるから、弁本体14の冷水導孔19及び熱水導孔20の出口部分に刃体を形成することが不適当であることは原告主張のとおりであるが、他面このことは当業者にとつて容易に理解できる事項というべきである。そうすると、第一引用例記載の混合栓においては、可動の弁子5と密接な接触をする弁箱1の内壁面側に刃体を形成すべきものであることが必然的に着想し得ることであり、そして、好都合なことに、右内壁面には環状通路2が設けられ、可動の弁子5の入口は流体の流量制御時(弁の閉鎖時)に、右環状通路2の下縁と摺擦する構造となつているから、この場合には、右環状通路2の下端部分を刃体で構成し(可動の弁子5の入口の部分ももちろん刃体で構成される)、もつて弁箱1の内壁面に、可動の弁子5と密接な接触をする剪断部材を形成するようなことは、当業者にとつて格別困難な事項でなかつたものと認めることができる。

そうすると、第一引用例に記載の混合栓において、流体の流量制御時に、バルブ入口に付着する異物を破壊したり取り除いたりする目的を持たせること、そして、右目的を達成する手段として、可動のバルブ部材による流体の流量制御時に、右異物を破壊あるいは取り除くための剪断部材を積極的に形成し、このことによつて右目的を達成するという作用効果を得ること、すなわち相違点についての本願第一発明の構成及び作用効果は、当業者にとつて容易に想到し得たところであると認めるのが相当である。

したがつて、被告が主張するように、審決が認定した本願第一発明と第一引用例記載のものとの間の相違点が実質的なものではないといえるかどうかについてはさておき、本願第一発明の相違点に係る構成は容易に推考し得たものではないとする原告の取消事由の主張は理由がないものというべきである。

5 以上の次第であるから、審決の違法をいう原告主張の審決取消事由はすべて理由がないことに帰する。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

1 内部に入口手段を有する固定バルブ部材と、該固定バルブ部材に隣接し、該入口手段と整合するように可動の入口を有する可動のバルブ部材と、該固定バルブ部材によつて保持され、該可動のバルブ部材と密封係合をする密封手段と、該密封手段から該可動のバルブ部材の反対側に位置し該可動のバルブ部材と密接な接触をする剪断部材とを含む自己浄化バルブであつて、該入口手段から該入口へ流れる流体の流れを制御するための該可動のバルブ部材の動きは、該入口に付着する異物を破壊したり取り除くために該剪断部材と隣接又は接触して該入口を摺動させることを特徴とする自己浄化バルブ。(以下「本願第一発明」という。)

2 温冷水用の離れた入口手段を有するスリーブと、該スリーブ内で可動で、入口と出口とを有するバルブ部材と、該スリーブに保持されて該入口手段の回りで該バルブ部材と密封接触する密封手段と、該バルブ部材内にあつてそれと親密な接触をしている剪断部材とを含む混合バルブであつて、該バルブ部材入口は該出口を通る水温と水量を制御するため該スリーブ入口手段と整合するように可動であり、該バルブ部材の該スリーブに対する動きは、該入口に付着する異物を破壊又は除去するため該剪断部材に隣接して該入口を摺動させることを特徴とする混合バルブ。

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